-
- 投稿日
- 2025.04.28
-
- 更新日
- 2025.04.28
生成AIは文章の作成や要約など、多岐にわたる業務で活用されていますが、「直近の情報を反映できない」「企業の固有データを活用できない」といった課題があり、導入に踏み切れない企業も少なくありません。
これらの課題を解決する技術として、RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)が注目されています。
本記事では、RAGの基本的な仕組みから生成AIとの関係性、具体的な活用例、導入時の注意点まで、企業のAI活用を成功に導くためのポイントを詳しく解説します。
目次
RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)とは?
生成AIは文章の作成や要約、翻訳など、さまざまな分野で活用が進んでいます。
しかし、従来の生成AIは、事前に学習したデータに基づいて回答を生成するため、学習データに含まれない情報を扱うことが苦手です。
例えば、頻繁に更新される情報や、企業独自の情報を反映した回答を生成することは困難でした。
RAGは、この課題を解決するために開発された技術です。
RAGは、生成AIの機能に外部データベースの検索機能を組み合わせます。
これにより、生成AIが事前に学習したデータだけでなく、外部データベースの情報を参照して回答を生成できるようになります。
RAGの仕組み
RAGの仕組みは、大きく「検索」と「生成」の2つの段階に分けられます。
1. 欲しい情報をデータベースから検索・抽出
ユーザーが生成AIに質問をすると、RAGはまず、その質問に関連する情報を外部データベースから検索します。
この検索には主に以下の2つの方法が用いられます。
- キーワード検索:ユーザーが入力したキーワードと一致する情報を検索
- ベクトル検索:質問文全体の意味や文脈を数値化(ベクトル化)し、意味的に関連性の高い情報を検索
これらの検索方法を組み合わせることで、質問の意図をより深く理解し、適切な情報を抽出できます。
2. 検索によって得られた情報を基に生成
次に、検索によって抽出された情報を基に、生成AIが回答文を作成します。
生成AIが回答を生成する際は、抽出された情報に加えて一般的な学習データも組み合わせながら適切な内容を検討します。
RAGと生成AIの関係性
生成AIは、人間のように自然な会話や文章の作成、要約、翻訳など、さまざまな業務で活用されています。
しかし、従来の生成AIには「事前に学習したデータしか参照できない」という大きな課題があります。
そのため、新しい情報や企業独自のルールを反映できず、ビジネスの現場で正確な回答を得ることが難しい場合がありました。
この課題を解決するのがRAGです。
RAGは、生成AIの回答の精度と信頼性を向上させるために、企業のデータベースや信頼できる外部ソースをリアルタイムで検索し、その情報を基に回答を生成します。
RAGは従来の生成AIの課題を補い、より実用的で正確なAIの活用を可能にする技術といえます。
RAGのメリット
RAGの導入により、企業はAIをより効果的に活用できるようになります。
主なメリットは以下の3点です。
- コストパフォーマンスの高い実装
- 現在の情報を反映
- 回答精度と信頼性の向上
それぞれ詳しく見ていきましょう。
コストパフォーマンスの高い実装
生成AIの導入が進む中、多くの企業がコストの負担という課題に直面しています。
AIを業務で活用するためには、モデルの学習や運用、データ管理などにコストがかかります。
特に、モデルを頻繁に学習させる場合、多くの計算リソースや時間が必要となり、新しい情報を常に反映させることは容易ではありません。
しかし、RAGを活用することでモデルの追加学習が不要となり、計算リソースや運用コストを大幅に削減できます。
システムの更新もデータベースの更新のみで済むため、手間も最小限に抑えられます。
そのため、頻繁な情報更新が必要となる業務においては、RAGの導入が効果的です。
現在の情報を反映
RAGは、生成AIが現在の情報を反映できるようにする技術です。
外部データベースやニュースフィード、企業のナレッジベースなどを検索し、その情報を基に回答を生成することで、従来の生成AIが抱えていた情報の鮮度に関する課題を解決します。
例えば、法改正の情報をRAGを通じて取得し、常に新しいデータに基づいた回答を提供できれば、業務の正確性を高めることが可能です。
RAGは、企業の情報管理において、常に新しいデータを活用できる環境を整え、業務の正確性と効率性を向上させるための重要な技術といえます。
回答精度と信頼性の向上
RAGは、生成AIの回答における正確性と信頼性を高めます。
RAGを活用することで、AIの回答には検索を通じて得られた正確な情報が含まれるようになります。
さらに、回答の出典(情報源)を明示することもできるため、利用者はAIの回答を信頼して活用できるでしょう。
例えば「新しい税制改正について知りたい」と質問された場合、RAGを搭載した生成AIは新しい税法データベースを検索し、その情報を基に回答を生成します。
これにより古い情報に基づく誤った回答を防ぎ、常に正確な情報を提供することが可能です。
企業がAIを導入する際にRAGを活用すれば、業務の効率化やナレッジの有効活用だけでなく、顧客対応の品質向上にもつながります。
正確で信頼できるAIの活用環境を構築することで、企業全体の生産性を高められるでしょう。
RAGが解決する生成AIの課題
RAGの活用により、生成AIが抱える以下の課題を解決できます。
- 社内の機密情報を扱える
- 最新情報に対応できる
- 誤情報(ハルシネーション)が発生しにくくなる
社内の機密情報を扱える
RAGは、企業の機密情報を安全に活用しながら、生成AIの能力を引き出せます。
従来のAIは、インターネット上の公開データを活用しており、企業固有の情報を活用することができませんでした。
またAIに直接学習させるファインチューニングという手法では、機密情報を外部のクラウド環境に送信する必要があり、情報漏えいのリスクがありました。
RAGは、外部データベースとAIを分離して管理することで、機密情報のセキュリティを確保しながら、正確な情報を提供できます。
つまり、RAGによって企業固有の情報や機密データを含む回答を生成できるようになります。
最新情報に対応できる
従来の生成AIは、学習済みのデータに基づいて回答を生成していました。
しかし、企業の業務や規則は頻繁に更新されるため、学習データだけでは「新しい社内ルール」や「新しい業界情報」を反映することができません。
特に、製品の価格変更や法改正、新技術の発表など、頻繁に更新される情報が必要な業務では、この点がAIの実用性を制限する要因となっていました。
RAGは、質問に応じてリアルタイムに外部データベースから情報を検索・抽出し、その情報を基に回答を生成します。
さらに、外部データベースを更新するだけで情報を反映できるため、意思決定のスピードを大幅に向上させることが可能です。
誤情報(ハルシネーション)が発生しにくくなる
生成AIは、自然な会話や文章生成を可能にする技術ですが、課題もあります。
その一つが誤情報(ハルシネーション)の発生です。
従来の生成AIは、学習したデータに基づいて確率的な推論を行うため、一見して正しそうであるものの実際には誤った情報を生成することがあります。
特に、法律や医療、金融などの分野では、誤った情報が大きな影響を与える可能性があるため、AIの信頼性が問題視されるケースも少なくありません。
この問題を解決するための技術がRAGです。
RAGは、信頼できるデータソースから情報を検索し、その情報を基に回答を生成するため、誤った情報が発生する可能性を低減できます。
RAGの具体的な活用例
RAGの具体的な活用例を3つ紹介します。
- 社内の情報管理
- カスタマーサポートの強化
- マーケティング・市場調査の支援
社内の情報管理
RAGを導入することで、社内情報の検索性が向上します。
社内規程や業務マニュアル、過去の対応事例など、企業内に蓄積されたさまざまな情報を一元管理し、必要な時にすぐに検索・活用できるためです。
新入社員の教育や業務の引き継ぎ、社内手続きの確認、トラブルシューティングなど、多くの場面で効果を発揮します。
例えば、従業員が経費精算のルールや社内システムの操作手順を知りたい場合、今までは社内ポータルサイトを検索し、該当するPDFや文書を開いて該当部分を探す必要がありました。
RAGを導入すれば、AIチャットボットに質問を入力するだけで、社内規程や業務マニュアルから該当する情報を検索し、的確な回答を得られます。
また従業員が検索した情報の履歴を元に、どの情報が頻繁に参照されているかを分析し、業務改善に活用することも可能です。
カスタマーサポートの強化
RAGは、企業のカスタマーサポートにおける対応品質を向上させます。
さらに、オペレーターの負担を軽減しながら業務効率を高めることが可能です。
製品情報やFAQ、過去の対応事例などを統合的に活用し、AIによる自動応対と人的サポートを適切に組み合わせることで、24時間365日、質の高いカスタマーサポートを実現できます。
従来のAIチャットボットでは、学習データに含まれていない問い合わせに対応できず、複雑なケースではオペレーターへの引き継ぎが必要でした。
しかし、RAGを導入することで、問い合わせ内容に応じてリアルタイムで関連情報を検索し、新しい情報に基づいた正確な回答を提供できるようになります。
例えば、商品ごとの正確な返品条件を顧客に案内できるようになり、問い合わせ対応の時間短縮が可能です。
マーケティング・市場調査の支援
RAGの導入により、企業は市場調査や競合分析を迅速かつ正確に行えるようになり、マーケティング施策の精度が向上します。
新しい市場動向や顧客行動データ、競合情報などを統合的に分析し、リアルタイムでのマーケティング戦略の立案と最適化が可能です。
特に、パーソナライズされたマーケティング施策の展開において高い効果を発揮します。
従来、マーケティングにおける市場調査は時間がかかり、情報が古くなりやすいという課題がありました。
例えば、製造業では新製品開発のために消費者の意見や市場動向を収集する必要があります。
しかし、調査に数週間から数カ月かかる場合もあり、その間にトレンドが変化してしまうことも少なくありませんでした。
RAGを活用すれば市場データを取得し、迅速に分析することが可能になります。
顧客の購買履歴や市場トレンド、季節要因などを統合的に分析し、パーソナライズされた商品を提案すれば、顧客満足度の大幅な改善や売上向上を期待できます。
RAGを活用する際の課題と注意点
RAGを効果的に活用するためには、以下の課題と注意点を押さえておく必要があります。
データベースの品質管理と更新
RAGを効果的に活用するためには、データベースの品質と更新頻度を適切に管理することが重要です。
RAGは、AIの回答精度を高めるために外部データベースから新しい情報を検索し、参照する仕組みです。
そのため、回答の精度と信頼性は、検索対象となるデータの品質と更新頻度に大きく左右されます。
データが古いままではAIが提供する回答の正確性も低下し、誤った情報を広めてしまうリスクがある点には注意が必要です。
例えば、法改正や新商品情報、企業の規定変更などが頻繁に行われる業界では、情報がすぐに陳腐化するため、データ更新の遅れが大きな問題となります。
このように、データの品質管理はRAGシステムの持続的な運用において非常に重要な要素です。
RAGの強みを生かすためには、データの更新頻度を適切に管理し、新しい状態を維持するための仕組みを確立することが不可欠です。
企業内の閲覧権限を考慮した情報提供
RAGシステムにおける閲覧権限の管理は、企業の情報セキュリティを確保する上で非常に重要です。
情報の閲覧権限を適切に管理し、機密情報が不適切に開示されないような仕組みを構築する必要があります。
例えば、経営層向けの財務データが一般社員にも表示されたり、部門ごとの機密文書が他部署の従業員に誤って提供されたりする事態は避けなければなりません。
- 検索対象を部門ごとのデータベースに分ける
- 役職ごとに閲覧制限を設定する
- 必要に応じて、学習データから除外する設定(オプトアウト)を行う
- ユーザーがどの情報を閲覧したかを記録する仕組みを導入する
RAGを導入する際は、上記の対策が必要です。
RAGの導入により、企業は業務効率を向上させられますが、適切な閲覧権限を設定しなければ、機密情報漏えいのリスクが生じます。
アクセス制御の仕組みを整え、情報の分類を明確にすることで、安全かつ効果的にRAGを活用しましょう。
回答時間の遅延
RAGを導入する際には「高精度な回答を提供する」というメリットと「回答時間が遅延する可能性がある」というデメリットのバランスを考慮し、適切なシステムを構築することが重要です。
RAGはリアルタイム検索を行うため、データの検索・抽出・統合に時間がかかるという課題があります。
例えば、顧客対応のAIチャットボットにRAGを活用する場合、応答速度が遅過ぎると顧客満足度が低下し、機会損失につながる可能性があります。
特に、大規模なデータベースや複雑な検索クエリを扱う場合に、この傾向は顕著です。
この課題を解決するためには、以下の対策が有効です。
- 不要なデータは検索対象から除外する
- インデックスを設定し、クエリ処理を最適化する
- サーバースペックを向上させ、処理能力を強化する
回答のスピードを最適化し、RAGを快適に活用できる環境を整えましょう。
RAGを積極的に活用して業務効率化を推進しよう
業務の効率化や精度向上を目指すのであれば、RAGの活用が効果的です。
RAGの導入は、既存の社内情報を安全に活用できること、データベースを更新するだけで新しい情報に対応できること、そして高い回答精度と信頼性を実現できることなど、企業にとって大きなメリットをもたらします。
しかし、RAGの導入には技術的な課題も存在します。
データの管理や閲覧権限の設定、回答速度の最適化などへの対応が必要です。
これらの課題を解決し、RAGの導入をスムーズに進めるためには、専門的な知識や技術が必要となる場合があります。
もしRAGの導入にハードルを感じており、技術的なサポートが必要な場合は、ツールの活用もご検討ください。
例えば、AIアプリ開発プラットフォームのDifyなら、ノーコードで生成AIサービスを開発できるため、専門知識を持った人材がいない場合でも直感的な操作でRAGの構築が可能です。
RAG導入の第一歩として、ツールの活用も視野に入れ、業務効率とAI活用の精度向上を目指しましょう。
お問い合わせはこちら
資料ダウンロードはこちら